1.はじめに:殺虫剤抵抗性リスク評価基準書とリスク評価表(概要)

 

 殺虫剤抵抗性リスク評価基準書(以下、評価基準書とする)では、殺虫剤リスク評価表(以下、リスク評価表)の作成基準と使用法を解説する。この評価基準書は主に過去の抵抗性発達事例と使用の実態に基づいて判断されているため、必要に応じて適宜見直し改訂する。

 評価基準書とリスク評価表を作成するにあたり、農林水産省消費安全局植物防疫課、農研機構「中央農業研究センター、生物機能利用研究部門、野菜花き研究部門、農業環境変動研究センター」および日本植物防疫協会の専門家から多大な協力を得た。農薬工業会Japan IRACからは貴重なご意見を賜った。

図1.殺虫剤抵抗性リスクの要素と殺虫剤抵抗性リスク評価表のイメージ
 山本(2018); 山本・土井(2021)

 

〔目的と使用対象者〕

リスク評価表の目的は、「地域の自然環境の異なる農作物生産現場ごとに、抵抗性対策をあらかじめ考えた上手な殺虫剤の使い方と害虫防除法を考えること」、および「殺虫剤抵抗性リスクの重大性の程度を見える化して対策につなげること」である。リスク評価表は殺虫剤抵抗性管理の要素である抵抗性対策ツールの一つであり、他の抵抗性対策ツールとともに適切な抵抗性対策を行う上での重要な武器となる(山本,2019)。
リスク評価表の使用対象者は主に現場の指導員等を含めた関係者としている。そして、各地の農作物生産現場の状況に応じて作成され、「農業生産者‐現場の営農指導員‐行政・技術者」の間で抵抗性管理・対策を伝えあう「殺虫剤抵抗性リスクコミュニケーション」(山本、2017)で活用することも目的となる。また、新規に開発された殺虫剤にとっては、その使用の初期から抵抗性対策をあらかじめ推奨することができる。


〔殺虫剤抵抗性リスクを構成する要素〕

殺虫剤抵抗性リスクは、殺虫剤リスク、害虫リスクおよび栽培・地域リスクの3つのリスクと、それを総合した抵抗性総合リスクからピラミッドのように構成される(図1)。
詳細は別項にて解説するが、殺虫剤リスクと害虫リスクは各リスク固有のものである。一方、栽培・地域リスクは、現場に密着したリスクであり、殺虫剤と害虫の組合せの固有のリスク値を、地域の自然特性、農作物の栽培法、および害虫防除状況に合わせて調整し、より実態に近づけることを目的とする。また、IPM(総合的病害虫・雑草管理)技術を駆使した防除では抵抗性リスクが低くなると考える。
なお、各リスク中の具体的な分類は、過去の抵抗性発達事例を主体に、抵抗性に関する研究・報告事例と害虫の生物学的特性に基づき評価し判断される。

〔殺虫剤抵抗性リスク評価表の要点〕

  1. リスク評価表では、後述の殺虫剤抵抗性リスクを構成する3種のリスク(要素)にそれぞれリスク値を付し、それらを総合して抵抗性総合リスクが点数として評価されている。
  2. 点数化は評価基準書に基づき、中立的・客観的に判断し評価される。
  3. 生物的・物理的防除資材や耕種的防除技術等を含む各種のIPM技術の積極的採用を促し、抵抗性リスク軽減策として点数化に反映させる。
  4. リスク評価表は、個々の殺虫剤の基本的な性能や、各害虫の防除の重要度・優先度を評価するものではない。
  5. 具体的な作成事例を充実させ、データベースに集約して抵抗性対策を共有化することを今後の展望とする。

〔参考とした主な資料等〕

 リスク評価表および基準書の作成に際して、次の資料・情報を参考に客観的に判断した。農林水産省植物防疫課の薬剤抵抗性害虫の発生状況調査(白石、2017等から集計),ミシガン州立大学の殺虫剤抵抗性データベースAPRD、「薬剤抵抗性農業害虫管理のためのガイドライン案/農研機構(2019)」の研究事例、および各殺虫剤の開発時期・年代、殺虫剤の販売金額(農薬概説、農薬要覧/日本植物防疫協会)。殺虫剤作用機構分類はIRACコードVer.9.4(IRAC、2020)を用いた。これらの情報からまとめた各種資料を付録に記載したので参照されたい。